職場でのドライアイの現状

ドライアイは、日本国内の患者数が約2,200万人ともいわれる非常にポピュラーな目の疾患です。オフィスワーカーを対象とした調査では、男性の約60%・女性の約77%がドライアイの確定またはその疑いに該当するという報告もあり、デスクワーカーの大多数が潜在的な患者といえる状況です。

見落とされがちなのが、ドライアイが生産性に与える影響です。目の不快感・かすみ・集中力の低下は業務効率を静かに蝕み、ある研究では職場での生産性損失の原因としてメンタルヘルス不調・筋骨格系の痛みに次ぐ第3位に位置するという試算もあります。「目が疲れるのは仕方ない」と放置することは、個人の健康だけでなく、組織全体のパフォーマンスにも影響します。

ドライアイは「我慢する目の疲れ」ではない

ドライアイを放置すると、目の表面(角膜)に細かい傷がつき、視力低下につながることがあります。「少し目が乾く程度」でも、症状が1か月以上続く場合は早めに眼科を受診することが大切です。

ドライアイとは?主な症状

ドライアイは、涙の量が不足したり涙の質が低下したりすることで、目の表面が乾燥してさまざまな不快症状が生じる状態です。「目が乾く」という症状だけでなく、以下のような多彩な訴えがドライアイに起因していることがあります。

「眼精疲労」と思っていたらドライアイ、というケースは多い

眼精疲労とドライアイは症状が重なりやすく、自己判断が難しい状態です。「夕方になると目がしょぼしょぼする」「画面を見ていると涙が出る」といった訴えも、ドライアイが原因であることが少なくありません。

VDT作業がドライアイを悪化させるメカニズム

厚生労働省の「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(2019年改訂)では、PC・タブレット・スマートフォンを使うVDT作業(情報機器作業)が眼への負荷を高めることを明示し、適切な環境管理と作業時間管理を求めています。ドライアイとの関係においても、VDT作業は中心的な職場要因となっています。

まばたきの減少

通常、人は1分間に15〜20回まばたきをしています。ところがPC画面に集中している間は、これが5〜7回程度にまで減少することが知られています。まばたきは涙を目の表面に均一に広げる役割を担っているため、回数が減ると涙の蒸発が進み、目の表面が乾燥しやすくなります。

また、画面を注視する際には目の開き方が大きくなる傾向があり、目の露出面積が増えて乾燥をさらに加速させます。

エアコンと低湿度

オフィスの空調は、涙の蒸発を促進する大きな要因です。エアコンの気流が目に直接当たるだけでなく、冬期や乾燥した気候では室内湿度が40%を下回ることもあり、蒸発はさらに加速します。VDT作業によるまばたきの減少と、乾燥した空調環境が重なることで、ドライアイのリスクは格段に高まります。

コンタクトレンズとの相乗効果

コンタクトレンズ(特にソフトレンズ)は涙を吸収しやすく、角膜への酸素供給も低下するため、もともとドライアイを招きやすい状態を作ります。VDT作業中にコンタクトレンズを装用していると、これらの要因が重なり、症状が著しく悪化することがあります。

職場要因 ドライアイへの影響
VDT作業(PC・スマートフォン) まばたきが通常の1/3程度に減少。涙の蒸発が進み目の表面が乾燥する
エアコンの気流・低湿度 送風口付近や冬期の乾燥環境では涙が急速に蒸発する
コンタクトレンズ レンズが涙を吸収し、目の表面の乾燥をさらに促進する
長時間の集中作業・ストレス 緊張状態が続くと涙の分泌量が減少しやすい
画面の高さ・距離が不適切 画面を見上げる姿勢は目の露出面積が増加し、乾燥が加速する

職場環境の整備で取り組むべき対策

ドライアイの予防は、職場環境を整えることから始まります。情報機器作業ガイドラインに沿った環境管理は、ドライアイ対策としても有効です。

湿度と空調の管理

VDT環境の整備

作業時間の管理

情報機器作業ガイドラインでは、連続作業は1時間以内とし、その後に10〜15分の休憩を設けることが定められています。連続作業時間内にも1〜2回の小休止を取ることが推奨されており、これはドライアイ予防にも直結します。

「20-20-20ルール」も併用を

20分ごとに、20フィート(約6m)先を20秒間見る「20-20-20ルール」は、眼科学会でも推奨されるVDT作業中の目の休め方です。タイマーやリマインダーを活用して職場に定着させると効果的です。

従業員自身でできるセルフケア

職場環境の整備と並行して、従業員一人ひとりが意識できるセルフケアを周知することも企業の重要な役割です。

意識的なまばたき

PC作業中はまばたきが無意識に減るため、意図的に「ゆっくりまばたき」をする習慣をつける。特に集中しているときほど意識する。

目を温める

休憩中にホットアイマスクなどで目元を温めると、まぶたの油分腺(マイボーム腺)の詰まりが解消されやすくなり、涙の蒸発を防ぐ効果がある。

コンタクトレンズの使用管理

可能であればメガネと使い分ける。終業1〜2時間前にメガネへ切り替えるだけでも症状が改善するケースがある。装用時間を必要以上に延ばさない。

症状が続く場合は眼科へ

環境整備やセルフケアを試みても症状が改善しない場合、または目のかすみ・痛みが強い場合は、眼科を受診するよう従業員に伝えることが大切です。

ドライアイの治療は、症状の程度や原因に応じて眼科医が判断します。点眼薬による治療が基本で、多くの場合は保険が適用されます。点眼薬で改善しない場合には、涙の排出口に小さな栓をして涙を目にとどめる涙点プラグや、まぶたの腺に光を照射して機能を回復させるIPL光治療など、より積極的な選択肢もあります。いずれも眼科での診断を経て選択されるものであり、「受診のハードルを下げること」が企業と産業医の役割です。

受診を促す一言が大切

「目の疲れくらいで病院に行くのは大げさ」と感じる従業員は少なくありません。産業医や衛生委員会を通じて「1か月以上症状が続く場合は眼科へ」というメッセージを職場に定着させることが、早期対処につながります。

産業医の役割

ドライアイは個人の体質の問題と見なされがちですが、VDT環境や空調という職場要因が大きく関与している以上、企業として向き合うべき健康課題です。産業医は職場環境の改善から個別の健康相談まで、幅広く支援できます。

産業医が支援できること

  • 職場巡視でのVDT環境確認:ディスプレイの高さ・距離・照明・エアコン配置・湿度などを実際に確認し、改善点を提言する
  • VDT健診(情報機器作業健康診断)の実施支援:配置前および年1回の健診で眼症状の有無を確認し、有所見者への対応を助言する
  • 衛生委員会での情報提供:ドライアイの職場要因・予防策・受診の目安について従業員向けに説明する
  • 症状を訴える従業員への個別面談・受診勧奨:「目が疲れる」という訴えを見落とさず、必要に応じて眼科への受診を後押しする
  • テレワーク環境のセルフチェック支援:在宅勤務中のVDT環境を本人が確認できるチェックシートの整備を支援する

産業医との契約がない50人未満の企業でも、地域の産業保健センター(さんぽセンター)を通じて職場環境に関する相談や情報提供を受けることができます。ドライアイ対策を入口に、VDT作業全体の労働衛生管理を見直すきっかけにしてみてください。

よくある疑問

従業員がドライアイを訴えた場合、会社はどう対応すればよいですか?

まず産業医または衛生管理者に相談し、VDT環境(ディスプレイの位置・照明・エアコン配置)や作業時間管理に問題がないか確認します。症状が強い・長く続いている場合は眼科への受診を勧め、必要に応じて就業上の配慮(PC作業時間の短縮・休憩の確保など)について産業医に意見を求めてください。「個人の体質だから」と放置すると、安全配慮義務上の問題になる可能性があります。

VDT健診にはドライアイの検査も含まれますか?

情報機器作業ガイドラインに基づくVDT健診では、眼科学的検査(視力・調節機能など)と自覚症状の確認が含まれます。ドライアイに特化した専門検査(涙液の量や質の測定)は通常含まれませんが、眼科受診の必要性を判断する入り口として機能します。「目が乾く・かすむ」という訴えが健診で把握できれば、眼科への受診勧奨につなげることができます。

テレワーク中の従業員のドライアイ対策は、会社の責任ですか?

在宅勤務中も業務として情報機器を使用している以上、安全配慮義務は変わらず会社に生じます。自宅の乾燥しやすい環境・長時間のビデオ会議・不適切な画面の高さなどはドライアイリスクを高めます。チェックシートの配布・加湿器の貸与・定期的な休憩ルールの周知など、在宅環境への対応を検討することが求められます。

衛生委員会のテーマとしてドライアイを取り上げるのは適切ですか?

はい、非常に適切なテーマです。ドライアイは多くのデスクワーカーが経験しながら放置しがちな問題であり、VDT作業管理・職場環境整備とも直結しています。衛生委員会で産業医から情報提供を行い、予防策の周知や受診勧奨のメッセージを発信することで、従業員の健康意識を高めることができます。

まとめ

ドライアイはオフィスワーカーに非常に多い健康問題であり、VDT作業・エアコン・コンタクトレンズという職場に多い要因が重なることで発症・悪化しやすい疾患です。症状が仕事の集中力や生産性を低下させることも踏まえ、職場環境の整備・作業管理・セルフケアの周知を組み合わせて取り組むことが大切です。

この記事のポイント

  • 日本のドライアイ患者は約2,200万人。オフィスワーカーの約65%がドライアイ確定またはその疑いがあるとされ、生産性損失の原因として職場で無視できない問題
  • VDT作業中のまばたきは通常の1/3程度に減少し、涙の蒸発が加速する。エアコン・低湿度・コンタクトレンズとの相乗効果でドライアイリスクが高まる
  • 情報機器作業ガイドラインに沿った環境整備(湿度管理・ディスプレイの高さ・作業時間管理)は、ドライアイ予防としても有効
  • VDT健診は年1回実施が推奨される。眼の自覚症状の把握から眼科受診への橋渡し役を果たす
  • 産業医は職場巡視・VDT健診支援・衛生委員会での情報提供・個別の受診勧奨を通じてドライアイ対策を総合的に支援できる

VDT環境の見直しや従業員へのドライアイ対策の周知にお困りの際は、産業医にご相談ください。

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