「産業医が職場巡視に来るが、何を見られるのかわからない」「事前に準備しておくことはある?」——職場巡視は産業医の中心的な業務のひとつですが、初めて経験する担当者には不安を感じる方も多いです。本記事では、オフィス職場に絞って、産業医が確認するポイントと企業の準備をわかりやすく解説します。

職場巡視とは

職場巡視とは、産業医が実際に職場を歩いて、従業員の健康に影響しうる環境・設備・作業状況を確認する活動です(労働安全衛生規則第15条)。有害物質・騒音・照明・温湿度・作業姿勢など、さまざまな観点から職場環境をチェックします。

工場や製造現場のような有害業務がイメージされやすいですが、オフィス職場でも必ず実施が必要です。長時間のパソコン作業・不適切な照明・換気不足・通路の安全など、オフィス特有の課題があります。

実施頻度・法的根拠

原則月1回以上
緩和条件を満たす場合2ヶ月に1回以上

緩和条件は以下の2つを両方満たす必要があります。

巡視頻度の緩和は「省略」ではない

2ヶ月に1回への変更は、産業医が必要な情報を継続的に受け取ることが前提です。情報提供を怠ったまま訪問回数だけ減らすことは認められません。産業医との情報共有の仕組みを整えることが必要です。

オフィスで確認される主なポイント

産業医がオフィス職場の巡視で確認する主な項目を紹介します。事前に把握しておくことで、スムーズな改善につながります。

① 作業環境・設備

② VDT作業(パソコン作業)環境

③ 休憩・福利厚生設備

④ メンタルヘルス・労働時間管理

⑤ 安全管理

巡視前に企業が準備すること

職場巡視をスムーズに進めるために、事前に以下を準備しておきましょう。

「見せるだけ」にならないために

職場巡視は「産業医に見せる」イベントではなく、職場環境を改善するための機会です。普段から気になっている設備・環境の問題点があれば、巡視のタイミングで積極的に相談しましょう。産業医からの改善提案が企業への「お墨付き」として機能することもあります。

巡視後の対応

職場巡視後、産業医は気になった点や改善が必要な事項を巡視記録・意見書として事業者に提出します。事業者はこの内容をもとに職場環境の改善を進める必要があります。

改善事項は衛生委員会で共有し、対応状況を記録しておくことが重要です。次回の巡視時に改善結果を産業医に報告することで、継続的な職場改善のサイクルが生まれます。

よくある疑問

巡視当日に「片付け」をしてもいい?

通常の整理整頓は問題ありませんが、普段の実態を隠すような過度な演出は望ましくありません。産業医は「普段の職場環境」を確認することが目的であり、実態と乖離があると適切なアドバイスが得られません。

巡視に立ち会う必要はある?

担当者が同行することが一般的です。産業医の質問にその場で答えられる人(総務・人事担当者・衛生管理者など)が同行すると巡視が効果的に進みます。

テレワーク中の従業員の環境はどうする?

テレワーク中の従業員のデスク環境・通信環境については、セルフチェックリストを配布して自己申告してもらう方法が一般的です。産業医と相談しながら対応方針を決めるとよいでしょう。

環境基準の軽視が招いた労災認定|判例から学ぶリスク

「換気の数値くらいで大げさでは」——そう感じる企業もあるかもしれません。しかし事務所衛生基準規則に定める環境基準を守らなかった職場が、死亡事案の労災認定において法的に問題視された判例があります。

判例
国・川崎北労基署長(富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ)事件
東京地方裁判所 平成23年3月25日判決(労判1032号65頁)

事案の概要

Gプロジェクトに配属された28歳の男性従業員(A)が、月100時間以上に及ぶ長時間労働・徹夜・休日出勤を続ける中、過重な心理的負荷による過量服薬に伴う急性薬物中毒で死亡した事案。増員は一切行われず、仮眠設備も不十分で、若年従業員は自席で机にうつぶせになるなどして仮眠せざるを得ない状況だった。

問題となった職場環境は、1人当たりの気積が7.0㎥(基準:10㎥以上)にとどまり、CO₂濃度は1,800〜2,100ppm(基準:1,000ppm以下)と恒常的に基準を大きく超過していた。

基準値との比較

項目事業所の実態事務所衛生基準規則の基準
1人当たりの気積7.0m³10m³以上
CO₂濃度1,800〜2,100ppm1,000ppm以下

裁判所の判断

東京地裁は、長時間労働・増員なし・仮眠設備の不備に加え、「事業所は1人当たりの作業スペースが狭い上、作業場所内で作業にあたる従業員数が多く、恒常的に二酸化炭素量が基準を超過して苛酷な作業環境であった」と認定。これらを総合考慮した結果、Aの業務による心理的負荷の程度は「過重」であったと評価した。

実務上のポイント:CO₂濃度・気積といった「日常的な環境基準」の違反が、長時間労働と組み合わさって心理的負荷を増大させたと司法に認定された。職場巡視でこれらの環境基準への適合を確認することは、労災リスクの予防に直結する。

まとめ

「初めての職場巡視で何を準備すればいいかわからない」「産業医を選任したばかりで流れがわからない」という企業様は、お気軽にご相談ください。