「従業員が突然、メンタル不調で出社できなくなった」「休職の手続きをどう進めればいいかわからない」——中小企業の経営者・総務担当者がこうした状況に直面したとき、何をすべきか迷うケースは多くあります。本記事では、メンタル不調が疑われる従業員への対応から、休職・復職の手順までを解説します。

メンタル不調のサインに気づいたら

メンタルヘルス不調は、本人が自覚する前に周囲が気づくことも多くあります。以下のようなサインが見られる場合は早めに対応することが重要です。

サインに気づいた場合、まず上司や人事担当者が本人と1対1で面談を行い、状況を丁寧に聞くことが出発点です。この際、責めるような言い方や、無理に理由を聞き出そうとすることは避け、「最近つらそうに見えるけど、何か困っていることはある?」といった寄り添う姿勢が大切です。

休職の判断と手続き

主治医の診断書を確認する

従業員が「休みたい」と申し出た場合、または明らかに業務継続が困難な状態にある場合は、主治医(かかりつけ医・精神科・心療内科)の診断書の提出を求めます。診断書に「休養を要する」「就労不能」などの記載があれば、休職の検討を進めます。

産業医面談を実施する

診断書をもとに、産業医と面談を実施します。産業医は主治医の診断書の内容と本人の状態を確認し、就業が可能かどうか、休職が必要かどうかを医学的に判断します。会社は産業医の意見をもとに休職命令や就業制限を判断します。

⚠ 産業医なしで判断するリスク

産業医に相談せず会社判断だけで対応すると、「休職させるべき状態なのに働かせ続けた」または「休職の必要がないのに休職命令を出した」として、後々トラブルになるケースがあります。産業医の意見を記録として残しておくことが、会社の安全配慮義務を果たす上でも重要です。

休職に関する就業規則の確認

休職を命じる前に、自社の就業規則で以下を確認しておきましょう。

休職中の会社側の対応

休職中も会社側としていくつかの対応が必要です。

項目内容
傷病手当金の案内健康保険から支給される傷病手当金(給与の約2/3)の手続きを案内する
定期的な連絡月1回程度、状況確認の連絡をとる(ただし頻繁すぎる連絡はNG)
職場復帰支援プランの準備復職を見据えて、どんな業務・環境で復帰させるか検討を始める
産業医との連携休職中の状況を産業医に共有し、復職時期の判断に備える
休職中の連絡について

休職中の従業員への連絡は、本人の回復を妨げないよう配慮が必要です。「早く戻ってきてほしい」というプレッシャーになるような発言は避け、「焦らず療養してください」というスタンスを基本とします。連絡方法・頻度は休職開始時に本人と合意しておくとトラブルを防げます。

復職に向けた対応手順

1

本人から復職の申し出・主治医の診断書提出

「復職可能」と記載された主治医の診断書を提出してもらいます。

2

産業医による復職面談

産業医が本人と面談し、業務に復帰できる状態かを判断。必要に応じて主治医への照会も行います。

3

職場復帰支援プランの作成

産業医の意見をもとに、復帰後の業務内容・勤務時間・フォロー体制などをまとめたプランを作成します。

4

試し出勤・段階的な復職

いきなり元の勤務に戻すのではなく、短時間勤務や軽作業から始める「段階的復職」が再休職防止に有効です。

5

フォローアップ面談

復職後も定期的に産業医・上司と面談を行い、状態を確認します。再休職の兆候を早期に察知することが重要です。

産業医の役割

メンタルヘルス不調への対応において、産業医は非常に重要な役割を担います。

産業医がいることで、会社側は「医師の意見に基づいた対応」という根拠を持って判断でき、トラブルリスクを大幅に下げることができます。

労災申請リスクと会社の法的責任|2つの判例から学ぶ

従業員がメンタル不調で休職した背景に長時間労働やパワーハラスメントがあった場合、会社は二重のリスクにさらされます。ひとつは労働基準監督署への労災申請、もうひとつは会社に対する民事上の損害賠償請求です。

労災保険と損害賠償の違い
労災保険会社への損害賠償
補償の主体国(労働基準監督署)使用者(会社)
根拠労働者災害補償保険法安全配慮義務違反(債務不履行)・不法行為
慰謝料支給されない請求できる
同時請求両方を同時に請求することが可能

労災が認定されると、会社が安全配慮義務を怠っていたとして、別途損害賠償請求を受けるリスクが高まります。以下の2つの判例は、長時間労働・パワハラそれぞれのルートで会社の責任が問われた代表的なケースです。

判例①
電通事件
最高裁第二小法廷 平成12年(2000年)3月24日判決

事案の概要

大手広告代理店に入社した新入社員(24歳・男性)が、慢性的な長時間労働によってうつ病を発症し、入社から1年5ヶ月後に自殺した。遺族(両親)が会社に対して損害賠償を求めて提訴した。

最高裁の判断

最高裁は「使用者は、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う」と判示し、長時間労働→うつ病発症→自殺という一連の因果関係を認定した。また、二審が認めた「本人の性格を理由とする過失相殺」については、「労働者の性格が個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない限り、斟酌すべきではない」として否定した。

賠償額:差し戻し審での和解により約1億6,800万円(和解・謝罪)。
ポイント:長時間労働によるメンタル不調・自殺について会社の安全配慮義務違反を認定したリーディングケース。「本人の性格」を理由に賠償を減額することは原則として認められない。
判例②
川崎市水道局事件
東京高裁 平成15年(2003年)3月25日判決

事案の概要

市の水道局工事用水課に勤務する男性職員が、課長・係長・主査の3名から継続的ないじめ・嫌がらせ(侮辱的発言、人格否定、ナイフを振り回しての脅迫行為など)を受けた。別の課長がいじめの申告を受けたにもかかわらず不十分な調査のもと「いじめの事実なし」と誤判断し、適切な措置を講じなかった。当該職員はその後心因反応を発症し自殺した。

裁判所の判断

裁判所は、いじめ行為と自殺の因果関係を認定した上で、課長がいじめを認識しながら制止しなかった点、および組織として適切な調査・対応を怠った点について安全配慮義務違反を認定。過失相殺(30%)を適用しつつも、使用者としての損害賠償責任を認めた。

賠償額:原告(両親)各人に約1,173万円の支払いを命じた。
ポイント:パワハラ行為者だけでなく、「知っていたのに放置した上司」「不十分な調査で握りつぶした組織」の責任が問われた。ハラスメントの申告を受けた後の対応が不十分であった点が義務違反の核心。
⚠ 休職に至った経緯を必ず把握・記録しておく

従業員がメンタル不調で休職した際、その背景に長時間労働・ハラスメントがなかったかを早期に確認し、記録することが重要です。問題があった場合は速やかに是正措置を取ることが、法的リスクの軽減につながります。

「知らなかった」「本人から申告がなかった」という言い訳は、東芝事件の最高裁判決(平成26年)でも否定されています。会社は申告がなくても労働環境に注意を払う安全配慮義務を負っています。

よくある疑問

従業員がメンタル不調を訴えているのに、本人が休職を拒否しています。会社はどうすればよいですか?

本人が拒否していても、就業規則に「会社が必要と認めた場合に休職を命じることができる」旨の規定があれば、会社側から休職命令を出すことが可能です。産業医の意見書を取得した上で、人事・法務とも相談して対応を進めてください。放置することが会社のリスクになります。

休職期間中に連絡が取れなくなってしまいました。どう対応すればよいですか?

緊急連絡先(家族など)に安否確認を行うことが最初のステップです。産業医・人事が連携して対応方針を決め、必要に応じて主治医に状況確認を依頼することも検討します。長期間連絡が取れない場合は、就業規則の規定に基づいて退職扱いになるケースもありますが、慎重に対応する必要があります。

復職後に再びメンタル不調になってしまいました。2度目の休職はどう扱えばよいですか?

就業規則に「同一疾病での休職期間の通算」規定がある場合、1回目の休職期間と合算して満了扱いになることがあります。ただし対応を誤ると不当解雇等のリスクが生じるため、必ず産業医の意見を踏まえ、弁護士や社労士とも連携して判断することを強くおすすめします。

まとめ

「メンタル不調の対応で困っている」「産業医がいなくて判断に迷う」という方は、お気軽にご相談ください。