2028年4月から50人未満の事業場も義務に

令和7年の労働安全衛生法の改正により、これまで努力義務だった労働者数50人未満の事業場でも、ストレスチェックの実施が義務になります。施行日は2028年(令和10年)4月1日です。

施行まで残り1年半ほどですが、50人未満の事業場には産業医や衛生委員会がないことが多く、「誰に頼めばいいのか」「社内で何を準備すればいいのか」がわかりにくいのが実情です。厚生労働省は2026年2月に「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」を公表し、小規模事業場での進め方を示しています。

50人未満の事業場のストレスチェック(ポイント)

  • 年1回の実施が義務(2028年4月1日から)
  • 高ストレス者から申し出があれば、医師による面接指導の実施も義務
  • 集団分析・職場環境改善は努力義務
  • 労働基準監督署への結果報告は不要

制度の全体像については「ストレスチェック制度とは?」で解説しています。この記事では、50人未満の会社がどのような体制で実施するかに絞って解説します。

自社で実施するのが難しい理由

ストレスチェックは自社で実施することもできます。ただ、社員同士の距離が近い小規模事業場では、次のような点が大きな負担になります。

担当する社員に守秘義務がかかり、心理的な負担になる

自社で実施する場合、調査票の回収やデータ入力、結果の保存などを行う「実施事務従事者」を社内から選ぶ必要があります。担当者は、毎日顔を合わせる同僚のストレスの状態や回答内容を知ることになります。

実施事務従事者には法律上の守秘義務があり、違反すると罰則の対象になります。「同僚の秘密を抱え続ける」「うっかり話してしまったら罰せられる」というのは、担当する社員にとって決して小さくない心理的負担です。

⚠ ストレスチェックで知り得た秘密を漏らすと罰則があります

ストレスチェックや面接指導の実施の事務に従事した人は、その実施に関して知り得た労働者の秘密を漏らしてはならないとされています(労働安全衛生法第105条)。違反した場合は、6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象になります(同法第119条)。

社長や人事部長は実施の事務を担当できない

人事について直接の権限を持つ人(社長、人事部長など)は、ストレスチェックの実施の事務に従事できません。少人数の会社では「事務を任せられる人がいない」ということも少なくありません。また、社員の個人結果を社長が見ることもできません(本人の同意がある場合などを除く)。

社員が「会社に知られる」と不安になり、正直に答えにくい

社内の人が結果を扱うと、社員は「上司や同僚に知られるのでは」と不安になり、正直に回答しなかったり、受検をためらったりしやすくなります。これでは、ストレスチェック本来の目的である不調の早期発見につながりません。

実施者(医師・保健師等)と厳格な情報管理が必要

実施者は、医師、保健師、または一定の研修を受けた歯科医師・看護師・精神保健福祉士・公認心理師でなければなりません。また、結果の保存についても、事業者が閲覧できないようにパスワードを設定するなど、厳格な管理が求められます。

厚生労働省は外部委託を推奨

こうした事情から、厚生労働省のマニュアルでは、50人未満の事業場については原則として、労働者のプライバシー保護の観点から、外部機関への委託が推奨されています。一方、自社で実施する場合については、厳格な体制整備のほか「極めて慎重な運用」が求められるとしています。

外部に委託すれば、個人結果などの健康情報の取り扱いは外部機関の中で完結し、社内では扱わずに済みます。

立場 主な役割
会社(事業者) 実施の方針を決める/実務担当者を指名する(外部機関との連絡調整・実施計画・進行管理)/面接指導の結果に基づく就業上の措置を行う
外部機関 実施者・実施事務従事者を置く/調査票の配布・回収/個人結果の通知・保存/面接指導の申し出の勧奨/集団分析

なお、外部に委託しても、ストレスチェック制度は事業者の責任で実施するものです。「丸投げ」ではなく、会社側にも実務担当者を置いて、委託先と連絡を取り合う体制が必要です。社内の実務担当者は健康情報を扱わないため、社長などが担当することもできます。

委託先を選ぶときのチェックポイント

ストレスチェックを請け負う外部機関には、健診機関やメンタルヘルスサービスの会社などがあり、サービス内容や料金はさまざまです。厚生労働省のマニュアルでは、委託先から事前に「サービス内容事前説明書」を出してもらい、次の点を確認することが重要だとしています。

確認項目 確認したいポイント
実施体制 実施者は必要な資格(医師・保健師等)を持っているか
実施方法 調査票の項目、紙かウェブか、高ストレス者の選び方、結果の通知方法
料金体系 基本料金に含まれる範囲(集団分析・面接指導・相談窓口など)と、オプション料金の区別が明確か
面接指導 高ストレス者が出たとき、誰が面接指導を行うか。料金は一括か、実施した分だけか
情報管理 個人情報保護の体制、結果の保存方法・セキュリティ

特に見落としやすいのが「面接指導を誰が行うか」です。ストレスチェックは受検して終わりではなく、高ストレス者から申し出があれば医師による面接指導を行い、その医師の意見を聴いて就業上の措置を検討するところまでが会社の義務です。

大切なのは「実施者」と「面接する医師」の連携

ストレスチェックから就業上の措置までは、次のような流れで進みます。

① ストレスチェック

外部機関が調査票を配布・回収し、実施者が結果を確認して高ストレス者を選びます。

② 面接指導の申し出

高ストレス者に結果と面接指導の案内が届き、本人が希望すれば会社に申し出ます。

③ 医師の面接指導

医師が本人と面談し、ストレスの状況や心身の状態を確認します。

④ 意見聴取・就業上の措置

会社は医師の意見を聴き、必要に応じて業務量の調整などの措置を行います。

この流れのどこかで連携が途切れると、「高ストレス者が出たが、面接の依頼先が決まっていない」「面接した医師にストレスチェックの結果がうまく伝わらない」「意見書の内容を会社がどう扱えばよいかわからない」といったことが起こります。

実施者と面接指導を行う医師が連携できていれば、結果を踏まえた面接ができ、会社への意見も具体的になります。社員にとっても、相談の窓口がはっきりしていることは申し出のしやすさにつながります。

地域産業保健センター(無料)も利用できます

50人未満の事業場は、地域産業保健センター(地さんぽ)に依頼して、高ストレス者の面接指導を無料で受けることができます。ただし、ストレスチェックの委託先とは別の窓口になるため、申し込みや日程の調整、情報の受け渡しは会社が行うことになります。また、義務化後は面接指導の対象者が大幅に増えると見込まれています。委託先を選ぶ段階で、面接指導をどこに頼むかまで決めておくと安心です。

今から準備しておきたいこと

2028年4月の施行に向けて、50人未満の会社が準備しておきたいことをまとめました。

準備チェックリスト

  • ストレスチェックを実施する方針を決め、社内に表明する
  • 社員の意見を聴く機会を設ける(衛生委員会がない場合は、職場の会議や懇談会など)
  • 社内の実務担当者を決める(衛生推進者などが想定されます)
  • 委託先を比較し、「サービス内容事前説明書」で内容を確認して契約する
  • 高ストレス者の面接指導をどこに頼むか決める
  • 実施規程(社内ルール)を作り、社内に周知する
  • 実施時期と対象者を決める(健康診断と同じ時期に行う会社も多い)

産業医の役割

産業医は、ストレスチェックの実施者として結果を確認し、高ストレス者への面接指導を行い、会社に就業上の措置について意見を述べます。50人未満の事業場では産業医の選任義務はありませんが、ストレスチェックの義務化をきっかけに、実施者と面接指導を同じ医師に任せられる体制をつくっておくと、その後のメンタルヘルス対応や休職・復職の相談にもつなげやすくなります。

当事務所の対応

当事務所では、提携先の外部機関とこまめに連絡を取りながらストレスチェックを実施しています。当事務所の産業医が実施者となり、ストレスチェックの実施体制のご相談から、高ストレス者が出た場合の面接指導、会社への意見書の作成まで対応します。

よくある疑問

従業員が10人未満でも義務になりますか?

はい、事業場の規模にかかわらず義務になります。ただし、10人未満の事業場や10人未満の集団では、個人が特定されるおそれがあるため、原則として集団分析は行わないこととされています。

労働基準監督署への報告は必要ですか?

50人未満の事業場では不要です。なお、報告の要否は「常時使用している労働者」の数で判断するため、パートやアルバイトを含めると50人以上になる場合は報告が必要になることがあります。

社員にはストレスチェックを受ける義務がありますか?

社員に受検の義務はありません。ただし、制度を効果的なものにするため、できるだけ全員が受検することが望まれます。受検しないことを理由に不利益な取り扱いをすることは禁止されています。

費用はどのくらいかかりますか?

人数や実施方法(紙・ウェブ)、面接指導の有無などによって異なります。当事務所での実施をご検討の場合は、お気軽にお問い合わせください。

まとめ

2028年4月から、50人未満の事業場でもストレスチェックが義務になります。小規模事業場ほどプライバシーへの配慮が重要になるため、外部委託を前提に準備を進めるのが現実的です。

この記事のポイント

  • 50人未満の事業場も2028年4月1日からストレスチェックが義務(監督署への報告は不要)
  • 自社で実施すると、担当社員に守秘義務と罰則(6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)がかかり、心理的な負担になる
  • 厚生労働省のマニュアルでは、50人未満の事業場は原則として外部委託が推奨されている
  • 委託先は、実施体制・料金・面接指導・情報管理を事前に確認して選ぶ
  • 実施者と面接指導を行う医師が連携できる体制を選ぶことが大切

「何から始めればいいかわからない」という段階からでもご相談いただけます。施行に向けて、早めに体制を整えておきましょう。

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